研究概要 |
近年の医療技術の進展に伴い,生体材料の研究開発が進み,これらは医療デバイス,又は生体部品の開発製造に生かされている.しかしまだまだ問題点は多い。人工臓器の中でも必要度が高いものの一つに生体弁がある.ヒト心膜を用いた生体弁は,免疫作用による生体材料劣化の程度は有意に少ないが,ヒト心膜の強度が不足が報告されていた.しかしながら,その強度不足の詳細は不明であった.そこで本研究においては,ヒト,ウシ,ブタにおける心膜の力学試験を実施し,基本力学挙動を比較検討することにより各動物種における心膜組織の機械的特性を調査した. 膜厚においては,ブタ<ウシ<ヒト,最大荷重においてはヒト=ブタ<ウシ,最大応力においては,ヒト<ウシ<ブタとの結果であった.ヒト心膜は最大荷重ではウシ心膜の約50%であり,この強度不足が術後遠隔期の弁機能不全に繋がっていると考えられた.すなわち,ヒト心膜の物理的強度を200%にすれば,このヒト心膜を用いた人工弁の製作が可能となるであろう.一般に素材の強度比較においては,最大応力(単位断面積当たりに受け持つ荷重)が用いられる.実験結果では,ヒト心膜はブタ心膜の31%,ウシ心膜の74%の強度を有する結果となった. これらの結果より,ヒト心膜においては膜厚が最も厚いにもかかわらず,物理的強度の面では最弱であることが明らかとなった.よって,ヒト心膜を現行のウシ心膜弁の代替品として用いる際の問題点が明らかとなった.これは,ヒト心膜組織の物理的強度の不足である.さらに,ヒト心膜組織を増殖し膜厚を増すのみでは解決とはならない.ヒト心膜組織内の物理的強度の増強を図る方策が必須であることが,本研究により明らかとなった.
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