研究概要 |
抗うつ薬の鎮痛作用については,詳しい機序は不明な点が多い。本研究では,三環系抗うつ薬の鎮痛作用の機序を,免疫組織学的手法で明らかにした。 実験にはWistar系雄性ラットを使用した。まず,三環系抗うつ薬のアミトリプチリン600gを,腰椎椎間から脊髄くも膜下腔に投与した。投与後0,1,2,3,4および5時間後の脊髄におけるC-FOSの発現を,免疫組織染色により検討した。その結果,時間経過に従うて脊髄でのC-FOS陽性細胞数は増加し,投与4時間後に最大となった。次に,アミトリプチリン0,15,30,60および90μgを脊髄くも膜下腔に投与し,4時間後のc-Fos陽性細胞数を計測した。投与量に依存した増加が認められた。さらに,このニューロンがどのような性質のものかを検討するために,アミトリフチリン投与4時間後の腰髄について,c-Fosとグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD : GABAの合成に必要な酵素)に対する蛍光二重染色を行った。アミトリプチリン投与により脊髄後角で増加したc-Fos陽性細胞の多くは,GAD陽性であった。以上から,脊髄くも膜下腔に投与したアミトリプチリンは,脊髄後角においてGABA産生細胞を賦活することが示された。 GABA産生細胞の賦活には,どのようなタイプのアドレナリン受容体が関与しているかを明らかにするために,アドレナリン作動性α1受容体の拮抗薬であるプラゾシン,α2受容体拮抗薬のヨヒンビン,および6%ブドウ糖液を脊髄くも膜下腔に投与し,その15分後に,アミトリプチリン60μgを脊髄くも膜下腔に投与した。4時間後の腰髄切片において,ヨヒンビン群及びブドウ糖投与後にアミトリプチリンを投与した群ではc-Fos発現の増加を認めたが,プラゾシン群ではc-Fosの増加を認めなかった。以上より,アミトリプチリンによるGABA産生細胞の賦活は,α1受容体を介した反応であることが明らかとなった。
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