研究概要 |
「難治性がん性疼痛における多刺激痛み受容体の機能変化とそれに基づいた治療法の確立」をテーマに研究を行った. 1.Endothelin-1(ET-1)とTRPV1の相互作用 骨がん疼痛はET-1受容体であるETAの活性を阻害することにより軽減することが知られているがET-1がどのように疼痛を発現させるかの機序は不明である.本研究ではTRPV1に注目しET-1とTRPV1の相互作用について検討した.その結果,ET-1はETAを活性化し,PKC依存性にTRPVIをリン酸化することが明らかとなった.リン酸化によりTRPV1は感作され,熱,酸,カプサイシンに対する反応性が増大した.また,ET-1による痛覚過敏はTRPV1遺伝子欠損マウスで消失した.以上により,ET-1はTRPV1の機能亢進することにより疼痛発生することが明らかとなった. 2.骨がん疼痛モデルに対するTRPV1拮抗薬の効果とTRPV1発現の変化 TRPV1拮抗薬は骨がん疼痛モデルマウスの疼痛関連行動を軽減させた.末梢神経系でTRPV1発現を検討したところ,骨がんモデルマウスでは末梢神経でのTRPV1 mRNAおよびタンパクの発現が増加した.さらに,その発現分布を検討したところ,発現細胞数が増加するとともに,TRPV1陽性神経細胞の表現型の変化が観察された. 以上により,骨がん疼痛発生機序として 1.骨がん状態では種々の細胞から放出されるET-1を含む生理活性物質によりTRPV1が機能亢進する. 2.さらに,骨がん状態では末梢神経系でTRPV1の発現が増加する.また,TRPV1活性阻害により骨がん疼痛は軽減する. TRPV1は骨がん疼痛発生の重要な分子であることが明らかとなった.
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