研究概要 |
単純性膀胱炎の原因菌についての研究は多数報告されているが、複雑性膀胱炎や無症候性細菌尿の原因菌についての研究はまだ不十分である。我々は、2000年から2004年の間に札幌医科大学付属病院および京都JT病院において分離同定された尿路由来大腸菌283株(単純性膀胱炎由来(UC)153株、複雑性膀胱炎由来(CC)56株、複雑性無症候性細菌尿由来(CABU)74株)に対し、その臨床背景、保有病原因子(VF)遺伝子(ata, aer, cvaC, cnf7,ETTT, fimH, fyuA, hly, ibeA, ihe, iroN, kpsMT, ompT, PAI, pap, sfa/foc. traT, usp)、系統分類、O血清型に関して比較検討した。 病原因子遺伝子の保有についてはmultiplex PCR法を用い、系統分類はClermontらのPCRを用いた分類法に、O血清型の決定はOrskovらの方法に準じた。VF遺伝子ではpap(47%、29%、30%)、iha(31%、30%、13%)、ompT(84%、79%、70%)、PA/(67%、59%、50%)で群間の保有率に有意差を認めたが、その他では同等であった。系統分類、0血清型についても3群間に有意な差を認めなかった。これらの結果から、類似した特徴をもつ大腸菌株が単純性・複雑性、症候性・無症候性のいずれの病態も惹起しうるものと考えられ、細菌側因子よりも宿主側因子の方がこれらの発症形態の差により大きく関与している可能性が示唆された。
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