研究概要 |
【目的】肛門挙筋(LA)は常にbaseline toneを保ち,骨盤臓器の支持を担っている.そして腹圧上昇時にはさらにLAがすばやく収縮することで,泌尿生殖裂孔の閉鎖を行っているとされる.DeLanceyらの報告によれば,骨盤臓脱(POP)の有無とLAの障害を検討すると,POPのある方が有意に障害が多い.LAの障害についてMRIを用いた解析は多いが,cine MRIにより動的に評価した報告はない.POP症例におけるLA,特に肛門挙筋板(Levetor Plate, LP)の動きをcine MRIで検討した.【方法】対象は2008年7月から2009年2月までに当科で脱修復術を受けたPOP-Q Stage III以上のPOP症例63名(平均62.4歳)と,POPのない対照女性7名(平均42.3歳).全例で夕方5時頃,骨盤cine MRIをValsalva maneuverを行いながら撮像した.体位は臥位でやや開脚とし膝を立て,出産時のようにいきむことができる姿勢とした.データはPCに集積し,DICOM viewerにて解析を行った.今回検討したparameterは,正中矢状断での恥骨-尾骨ライン(PC line)と,肛門挙筋板(LP)のなす角度(sagging angle, SA)で,下方に開大する時を正とした。【結果】SAはPOP症例=+35.31±11.2度,対照=-8.9±10.6度で,有意にPOP症例の方が大きかった(p<0.01).POP症例63名を,SA30度で区切り分類すると,(a)30度以上が44名(69.8%,SA平均=41.3度),(b)30度未満が19名(30.2%,SA平均=21.6度)であった.初診時の記録を検討すると,(a)群は台上診で容易に脱を観察できたのに対し,(b)群では脱失臓器の観察に様々な工夫を必要としていた.【考察】顕性のPOPを有する女性は,対照女性と比し,肛門挙筋板が尾骨を中心にしてより大きく下方へたわんで泌尿生殖裂孔を開大させることがわかった.顕性のPOPを有する症例でも,肛門挙筋板の下方への開大が少ない症例が約3割存在した.これらの症例は,重症のPOPを有しているものの,臨床的に診察時に膣外への脱失臓器を観察しにくい症例であった.すなわち一見同じように見える重症POP症例でも,骨盤臓器の脱失様式が異なるものと推測された.
|