研究概要 |
わが国は世界有数の近視国であり,近視による視覚障害は常に失明原因の上位を占める重要な疾患である。強度近視の視覚障害の原因は,眼軸延長により後極部眼底に生じる様々な近視性眼底病変であるが,中でも黄斑部に生じる脈絡膜新生血管(CNV,Fuchs斑)は視覚障害の原因として最も重要である。研究代表者は長年,強度近視患者の診療に携わってきたが,近視性CNVの分子機構は未だ不明であり,また視機能上重要な黄斑部に生じるため,従来の治療法では視力改善が得られず,有効な治療法は確立されていない。わが国における近視人口の多さを考えると,従来の経験的治療法ではなく,近視独自のCNV発生機序を解明し,分子機構に基づいた治療法を開発することが社会上急務である。 強度近視の本態は眼軸の延長であり,それにより網膜にかかる機械的ストレスがCNV発症の原因であると考えられる。そこでまず生体内に近い状態をin vitroで再現するために,ヒト培養網膜色素上皮(RPE)細胞をlaminin-coated dish上でbasic FGF含有培地で培養し文化誘導を行った。このRPE細胞が分化形質を発現していることはcobblestone状の形態,色素の産生,CRALBP,RPE65などの分化マーカーの発現をもって確認した。つぎに,RPE細胞に対し,強度近視の病態を模して機械的伸展を負荷した際に生じる遺伝子発現変化調べた。刺激としては培養細胞伸展装置Flexer Cellを用い,予備実験から15%の伸展強度で30分間隔のパルス状刺激を選択した。RPE細胞に伸展刺激を負荷し,24時間後にmRNAと培養上清を施行し,realtime PCRとELISAを施行した。その結果,伸展刺激によりRPE細胞におけるVEGF,MCP-1の発現がmRNAレベル,蛋白レベル共に上昇していた。一方,血管新生抑制因子であるPEDFの発現は蛋白レベルで低下していた。以上から,機械的伸展によりRPE細胞において生じるこのような血管新生関連因子のバランスの崩れが近視性CNVの発生に大きく関与していると考えられる。また近視性CNVの発生,進展に関与する臨床研究を施行し,CNVの進展に関与する因子を眼循環の側面から解析した。
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