研究概要 |
再上皮化過程において,ケラチノサイトのインテグリン発現,真皮細胞外基質,matrix metalloproteinases-1 (MMP-1)やurokinase-type plasminogen activator(uPA),サイトカインや増殖因子などはケラチノサイトの接着・遊走・増殖に関与する重要な因子である。私たちは,慢性創傷(褥瘡)における再上皮化遅延の機序解明のために,(1)褥瘡部遊走表皮細胞におけるα5β1インテグリン発現,(2)遊走表皮下真皮でのフィプロネクチン分布,(3)基底膜部ラミニン-1染色所見(再上皮化の進行状況の指標になる),(4)病理組織学的所見(表皮延長,表皮肥厚)の変化を急性創傷(熱傷)でのそれらと比較して検索した。慢性創傷として褥瘡20症例22標本,急性創傷(コントロール)として熱傷24症例24標本を対象とした。手術時の摘出標本を用いてホルマリン固定,パラフィン包埋標本を作製し,4即の連続切片を作製した。一次抗体として,抗ヒトインテグリンα5,抗ヒトフィプロネクチン,抗ヒトラミニン-1抗体を,二次抗体としてEnVision+ System-HRP Labelled Polymerを,発色試薬としてDABを用いて免疫染色を行った。またHE染色を行い,組織学的検索を行った。免疫染色標本について,遊走表皮の表皮真皮接合部位での以下の距離をIPLabを用いて測定した。α5β1についてはsuprabasalに及ぶ発現陽性部,フィプロネクチンは増加部,ラミニン-1は発現陰性ないしは減弱部を測定した。HE染色標本について,表皮延長(不全角化をしめす遊走表皮部)と表皮肥厚の距離を同様にIPLabを用いて測定した。統計学的解析は相関分析とStudent'st-testにより行った。その結果,(1)熱傷において,α5β1発現陽性部とフィプロネクチン増加部,α5β1発現陽性部とラミニン-1発現陰性部,フィプロネクチン増加部とラミニン-1発現陰性部とは統計学的に有意に相関した。さらに,表皮延長はα5β1発現陽性部,フィプロネクチン増加部,ラミニン-1発現陰性部と有意に相関した。(2)褥瘡において,α5β1発現陽性部とフィプロネクチン増加部,α5β1発現陽性部とラミニン-1発現陰性部,フィプロネクチン増加部と表皮延長,表皮延長と表皮肥厚とは有意に相関した。(3)褥瘡では,α5β1発現陽性部,フィプロネクチン増加部,ラミニン-1発現陰性部の距離が,熱傷に比べて有意に減少した。また,表皮肥厚が有意に増加した。以上の結果より,α5β1,フィプロネクチンは表皮遊走に有意に関与する因子であることが証明された。また褥瘡でのケラチノサイト遊走障害は,α5β1発現,フィプロネクチン分布の減少が一因であることが明らかになった。
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