研究概要 |
三叉神経上核(SupV)には顎口腔領域からの感覚入力を受けて三叉神経運動核(MoV)に出力を送る介在ニューロンが存在し,顎運動の制御に重要な役割を果たしていると考えられている.そこで本研究は,前頭断ラット脳幹スライス標本に光学的電位測定法とパッチクランプ法を適用し,SupVとMoVの間の局所神経回路の発育様態を調べた.新生ラットにおいて,SupVの電気刺激を行うとMoVに光学的応答が誘発され,細胞外液のCa^<2+>をMn^<2+>に置換してシナプス伝達を遮断してMoVを電気刺激するとSupVに逆行性の光学的応答が認められた.さらに,MoV刺激に逆行性に応答するSupVニューロンからホールセル記録を行ったところ,biocytinを注入して軸索の走行を形態学的に検索すると,同側のMoVに軸索が投射していた.次に,この興奮性出力を担う神経伝達物質を検討した.SupV刺激によるMoVの光学的応答は,CNQXとAPVの同時投与あるいはstrychnine投与により減弱したが,bicuculline投与では変化しなかった.さらに,三叉神経運動ニューロンからグラミシジン穿孔パッチクランプ記録を行ったところ,SupV刺激によってEPSPが誘発され,このEPSPはCNQX, APV, strychnineあるいはbicuculline投与によって減弱した.一方,7日齢以降の動物では,MoVの光学的応答は,CNQXとAPV投与で抑制されたが,strychnineで増強した.また,SupV刺激によってstrychnine感受性の抑制性シナプス後電位が三叉神経運動ニューロンで記録された.以上の結果から,新生ラットでは,SupVからMoVヘグルタミン酸性,グリシン性およびGABA性の興奮性出力を送るのに対して,7日齢以降の動物では,グリシン性およびGABA性のシナプス伝達が抑制性に変化することが明らかとなった.
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