研究概要 |
嚥下障害患者の舌背斜面を不随意滑落する食塊のレオロジーを,実物大口腔咽頭模型を被写体としたVFシミュレーション,および嚥下障害診断の目的で施行された症例のVF画像から検討し,以下の結果を得た. 1)試料に粘性を付与することにより不随意舌背斜面滑落速度が大きく低下することがわかった. 2)速度抑制効果は,およそ1000mPa・sの粘性を付与した飲食物から顕著に認められ,過剰に増粘剤を添加しても大きく変化しないことが示唆された. 3)生体の嚥下においては,液体,粘性試料ともに同じ程度の頭部傾斜であっても滑落速度に大きな個体差を生じることがわかった. 4)特に粘性試料において,VF試料の不随意舌背斜面滑落速度は,頭位の位置づけによる影響を受けにくいことが示唆された. 以上より,飲食物の制御が著しく困難で不随意に舌背斜面を滑落する嚥下障害患者にあっては,飲食物に1000mPa・s程度の粘性を付与し,極端な前傾あるいは後傾位をとらずに摂食することで,誤嚥リスクを低減可能である事が示唆された. 続いて,VF検査に用いるペースト状の食品に関して,テクスチャ特性(硬さ,付着性,凝集性)を評価して,VF所見と併せて摂食嚥下指導に活用する事を試みた。テクスチャ計測の導入により,介護者から質問される事の多い,患者が日常食べている飲食物の物性に関する問題に,より具体的で一般的な表現を用いて,他の食品と比較しながら説明する事が可能となった。患者毎に,食べやすく,嚥下しやすく,かつ誤嚥されにくい適切な食品の物性を検討し,摂食嚥下指導に反映する事の有効性が示唆された。
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