研究概要 |
歯冠修復物に用いる材料を選択する際に考慮するべき物性の一つに,材料の摩耗傾向が挙げられる.装着する補綴物は,天然歯相互の摩耗に類似した傾向をもち,口腔内のその後の咬耗による変化に調和していくものが望ましい場合や,全顎的な咬合再構築後に咬合面を可及的に保持する必要から,できるだけ摩耗の生じないものが望ましい場合など,症例に応じた材料の選択が求められる.そのためには,天然歯や歯冠修復物に用いる材料のすべての組み合わせにおける摩耗傾向を把握しておく必要がある. そこで,現在咬合面に用いられている数種の修復材料と天然歯について往復滑走摩耗試験を行い,材料の摩耗傾向の評価を行った.その結果,天然歯や材料相互の摩耗傾向は,材料の組み合わせにより大きく異なることがわかった.この摩耗傾向の違いに影響を与えると考えられる材料の物理的諸性質のうち,硬さ,表面粗さとの関係を調べたところ,明確な相関は認められなかった.そこでそのほかに摩耗に大きな影響を与える因子として,材料間の摩擦係数に着目し,摩擦力が摩耗に与える影響について明らかにすることを目的として,摩耗試験に用いた5種の歯冠修復材料とヒト天然歯エナメル質について,平板状試料と棒状試料を作製し,各材料を組み合わせ滑走運動させた際の摩擦力を測定した.測定には,試作した冶具を材料試験機(島津オートグラフAG-IS)に取り付けた摩擦力測定装置を用い,予備試験により決定した条件で試験を行った.しかしながら,材料間の摩擦係数と滑走摩耗試験における各材料間の摩耗量との間には明らかな相関は認められず,今回の実験条件においては材料問の摩擦力が摩耗傾向に与える影響は明らかにならなかった.
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