研究概要 |
発音はコミュニケーションを図るために必要不可欠な口腔機能で,多くの客観的な評価法があるが,場所,時間,人員等の制約があり診療時の評価は困難である.そのため診療時の発音の判定は未だに患者の話しやすさ,術者の聴覚による主観的評価が多い.そこで簡易型マイクロフォンとノートパソコンを用いて発語時の音声パターンを符号に変換し,ラベル表示してその明瞭度を数値化し,チェアサイドで補綴処置の効果を判定可能な評価システムを開発した.本システムでは発語音声を音声認識プログラム(東芝メディカル社製)にて,複合音響特徴平面と呼ばれる時間・周波数方向の局所的変化を強調する手法で,音声セグメントラベルと呼ばれる横文字2文字の符号に変換して,対象音節の適正ラベルの出現率を分析,評価する.被験語は義歯装着時に発音障害の生じやすい摩擦音[シ]音を第2音節に含む「石松」,「石川」を選択し,[シ]の子音部を分析した. 本システムを用いて上顎義歯装着者5名の前歯部排列の水平被蓋を実験的に変えた結果,使用義歯より水平被蓋を4mm増やすと,[シ]の適正ラベルが有意に減少した.また上顎全部床義歯装着者6名の義歯口蓋前方S状隆起の棚状部の形態を実験的に変えたところ,2〜4mm程度の幅の棚を付与すると[シ]の適正ラベルが多く出現し,適正に発音されることが確認された. したがって蝋義歯試適時に本装置を用いて人工歯排列位置,口蓋形態を判定すると,装着時に調整の少ない義歯を製作可能なことが示唆された.近年の音声認識プログラムは発音の正確さより,話者の意図する単語,文章への文字変換が主目的である.しかし本システムでは日本語100音節を200種以上のラベルに細分類して,その適正ラベルを表示するため,耳で聞いて微妙な判定も明確に識別可能となり,チェアサイドの補綴処置効果の判定に有用で,歯科診療に多大な貢献が期待される.
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