研究概要 |
咬合の異常感覚症(咬合に病的な問題が認められないにもかかわらず,咬合の違和感を訴える患者,以下OD)の客観的な評価法を開発することを目的とし,臨床検査,心理学的検査(心理テスト:(1)GHQ60,(2)POMS短縮版),上下顎中切歯間における厚さ弁別能試験を実施した.今年度は主にOD患者の調査を目標としたが,さらに健常者のデータを追加するために総義歯装着患者に対しても実験を行った. 総義歯装着患者群には臨床診査,心理学的検査により異常が認められなかった17名(54〜90歳)を選出し,厚さ弁別能試験を行った.厚さ2,5,10mmのスタンダードブロック(SB)とSBから±0.25mmずつ厚さの異なる12種類のテストブロック(TB)を使用し,SBより薄いTBを厚い,厚いTBを薄いと答えた場合を誤答とし,誤答数を算出した.20代の健常有歯顎者では,2,5,10mmのSBにおいて,10mmの誤答数は2mmの誤答数よりも有意に多く,また,厚いブロック群の誤答数は薄いブロック群よりも有意に多かった.この傾向は総義歯装着患者においても変わらなかった. OD患者10名の厚さ弁別能試験の結果は,厚いブロック群よりも薄いブロック群の方が弁別しやすいという傾向が健常者よりも顕著であった.2,5,10mmの各SB間の誤答数の比較では有意差がなかった.OD患者と健常者とを直接比較した結果,有意差はなかった.以上から,OD患者の厚さ弁別能は健常者のそれと差があるとはいえなかった.ただし,誤答数のばらつきが健常者と比較すると大きく,誤答数が非常に多い者と少ない者に関しては,健常者とは違うということが本検査法にて検出できた可能性がある.心理テストの結果,OD患者では全く異常がない者は1名のみで,ほとんどが大なり小なり何らかの症状がみられた.このことから,ODと精神的な異常との間に関連があることが示唆された.
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