研究概要 |
侵害刺激を家兎の三叉神経に加えると,血圧の変動が生じる.まず,どのような刺激の際に昇圧反応あるいは降圧反応が生じるか明らかにするとともに,その際の自律神経活動の変動を確認した.眼窩下神経を5Hzで刺激すると降圧反応が,25HZで刺激すると昇圧反応がみられた.前者の際には腎交感神経活動(RSNA)の減少,後者の際にはRSNAの増加が認められ,三叉神経刺激による循環応答は交感神経を遠心路とした体性交感神経反射であることが示唆された. ついで,これらの反応に影響を与える因子を検討した.動脈圧受容体反射は降圧反応を増強し,昇圧反応を抑制した.プロポフォールは昇圧反応を,フェンタニルは降圧反応を抑制し,イソフルランは濃度依存的に両反応を抑制した.また,フェントラミンも両反応を抑制した.このことより,三叉神経刺激によって生じる昇圧反応と降圧反応においては,延髄における刺激伝達の経路が異なることが示唆された. さらに降圧反応が生じている際の総頸動脈(CA),腎動脈(RA),大腿動脈(FA)の血流量の変化を検討するとともに,各動脈血流量に対するフェンタニルの影響を観察した.オトガイ神経刺激を加え平均動脈圧を低下させた状態での血流量の変化をみると,RA, FA, CAの順で変化が大きく,CA, FAでは変化に有意差はなかった.以上の結果より,三叉神経刺激により生じる血流量の減少は,CAとFAでは明らかではなく,一方,RAでは顕著であり,部位により交感神経活動の減少の程度や血流の自己調節能に違いがあると考えられた.フェンタニルの投与を行うと,三叉神経刺激による血圧低下が小さくなったが,血管による反応性の違いはフェンタニルにより影響をうけなかった.
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