研究概要 |
我々は癌転移の成立過程,とりわけ癌細胞が基底膜や周囲の正常組織などへ浸潤していく際に必要となる運動能について着目し研究している。これまでの我々の研究で、口腔癌細胞において血管新生の重要な担い手である血管内皮増殖因子(VEGF)およびその受容体であるFlt-1(VEGFR1)およびKDR(VEGFR2)が発現していることを確認している。これらの結果は,VEGFは従来より研究されているパラクライン系を介した血管新生促進に加え,オートクライン機構を介して癌細胞自身の浸潤・増殖に関与している可能性を示唆している。そこで,我々は口腔癌細胞株のうち悪性黒色腫細胞株におけるVEGF・同受容体の浸潤・増殖における機能について解析した。 1)口腔癌細胞の増殖能は、Flt-1アンチセンスオリゴ(ASO)により抑制された。 一方、VEGFおよびKDRアンチセンスオリゴ(ASO)では影響を受けなかった。 2)口腔癌細胞の運動能を解析したところ、VEGF165はケモタキシス及びケモキネシスを誘導することが明らかとなった。この活性はVEGF受容体のチロシンキナーゼ阻害剤およびFlt-1 ASOによって抑制されたが,KDR ASOでは明らかな影響を示さなかった。 2)VEGF添加によりAktのリン酸化が亢進した。 PI3K阻害剤で、Aktのリン酸化およびVEGFに依存した細胞遊走能は抑制された。 以上の結果から,口腔癌細胞の浸潤・増殖は,Flt-1、PI3K/Akt経路を介したオートクライン機構により制御されている可能性が考えられた。今後さらに同受容体を分子標的とした治療の開発研究を行って行く予定である。
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