研究概要 |
本研究は,脆弱な施設高齢者を対象に個の転倒リスクに応じたエビデンスに基づく転倒予防プログラムを開発することを目的とした,3年間にわたる研究であった。プログラムは文献検討を行いエビデンスから合成した。文献検まから,施設高齢者の動的生活体としての転倒環境が不明瞭なこと,および効果を高めるにはプログラム内容だけでなく,実施率を上げるためスタッフの転倒予防に対する意欲と動機付けが課題として挙がった。環境では,13種類の転倒ハザードおよび下腿長と車椅子座面の高さとに0.518の中等度の関連が分かり,その内容をプログラム内に反映した。開発したプログラムの骨子は,(1)転倒予防に関する職員教育,(2)フォーカス・グループ・インタビューによる,その施設での課題の明確化と解決策の立案,(3)転倒予測アセスメントツールによる個の転倒リスクの見極めとエビデンスや理論を活用した個への介入計画の立案・実施,(4)転倒予防チームによるスタッフへのコンサルテーションサービス,(5)転倒発生時は根本原因分析法により介入計画を修正・評価する,から成った。スタッフの意欲・動機付けは,アクションリサーチにより施設内で形成した転倒予防チームが核となり,チームが立てた「身体拘束をしないで転倒・損傷を予防する」の目標のもと,Newman Mが提唱する統一体的・変容的パラダイムを基盤に教育や情報伝達を行い,意識変革を試みた。療養病床の試行では,対1,000日の転倒率(回)は対照群4.8回から4.3回への推移に対し介入群は7.6回から5.0回に減少し,介入群の損傷者は22.6%から9.7%,損傷件数は13件から3件に減少し有意差がみられ,プログラムの効果を確認できた。特性的セルフエフィカシー尺度と勤労者用ソーシャルサポート尺度の得点は介入群では上昇し有意差があった。スタッフの転倒予防意欲・動機にはエンパワーメントの必要性が明らかとなった。
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