研究概要 |
【目的】本研究の目的は,本人はもとより介護家族の就労が障害され,在宅介護の困難性があり施設入所予備軍としてハイリスクでもある初老期(若年)認知症者および家族介護者の双方のQOLの向上をめざした包括的な地域生活支援方法を縦断的な追跡により開発し,地域生活継続の可能性を探り,支援のあり方,方法および必要な施策を明らかにすることである.本研究では初老期(若年)認知症者と介護家族グループに対し,アートセラピーと相互交流の会を定期的に実践し,その効果について総括的な評価を行った. 【方法】1.初老期(若年)認知症者の発達とストレングスを支持するアプローチで,初老期(若年)認知症者と介護家族のセルフヘルプグループを形成し,相互交流の場として発展させ,個別の能力開発を目的としたアートセラピーのプログラムを実践展開し,認知機能,日常生活動作,QOL等の改善について行動観察による効果測定をした.2.介護家族のグループと同時開催で,開催時間・回数も同様にアートセラピーを実施するが,定期的に家族カウンセリング及び家族の相互によるセルフヘルプグループの形成を目的に別室で行った.実施期間:2005.8〜2006.12 【結果及び考察】初老期(若年)認知症者と介護家族グループを対象に,アートセラピーを6カ月間実践した結果,以下の効果が示唆された.1.アートセラピーの介入により初老期(若年)認知症者の日常生活への積極性・自発性の維持・向上に一定の効果があった.2.特に軽症または中等症の初期の段階における介入で一層の効果が期待できる.3.アートセラピーによる相互交流の場が初老期(若年)認知症者の新たな役割を見出すきっかけになる.4.介護経験者の存在が相談名として機能し,介護の役割モデルとなるなどであった. 以上のことから,アートセラピーが(1)他者への関心や相互交流として有効であり,生産的かつ発展的な場であること,(2)社会参加を促し生活圏の拡大につながること,(3)日常生活における意欲の維持・向上から心理的側面に影響を与える,(4)非日常的空間と肯定的な場の提供が初老期(若年)認知症者の情動を安定的に保ち,家族の関係性に影響を与える可能性などが考えられた.今後はアートセラピーを継続可能な環境の充実と整備を図りながら、地域生活支援に向けた相談機能や役割機能の構築や施策への提言をしていきたい.
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