研究課題
基盤研究(C)
二年に渡る本研究では、ウィリアム・バトラー・イェイツ(1865・1939)の夢幻劇を、日本の「能」、スピリチュアリズム、サウンド・シンボリズムという三っの観点から探求した。研究の焦点を『エマーの唯一度の嫉妬』(1919)、『カルヴァリーの丘』(1920)、『窓ガラスに刻まれた言葉』(1934)という三つの詩劇にあて、それぞれの劇の象徴的な舞台表象について分析した。『エマーの唯一度の嫉妬』は、アイルランド民間伝承の「取替えっ子」のモチーフとスピリチュアリズムの要素が結びつき、能の『葵上』と構造的繋がりがある。楽師たちの始まりの歌では、「f音」と「b音」が交互に用いられることで、対立する二つの世界の相互浸透が暗示され、「対抗的な」英雄の心の深奥を劇的に示す。イェイツは、詩において、己の神秘哲学体系に対応させ頭韻を体系的に用いるが、このサウンド・システムは、彼の劇作にも同様に働いている。『カルヴァリーの丘』は、「夢見」というスピリチュアリズムの概念を反映しており、「魂の劇化」を再創造するという意味で、イェイツの考える「能」であるとみなせる。イェイツのサウンド・シンボリズムは、『カルヴァリーの丘』では一層精妙になり、対立的に用いられる「f音」と「b音」の間に「d音」が頭韻として入り込み、「さいころ振りの舞踏」を導くことで、「始原的」英雄であるキリストの限界の悲劇性を強めている。『窓ガラスに刻まれた言葉』では、イェイツは「能」の諸要素を変容させ、独自の夢幻的な聴覚表象を編み出す。観客は、主人公ジョナサン・スウィフトが、精神と肉体の激しい葛藤に捉えられている声を聞くが、それは、象徴的な「b音」を支配的に響かせることにより表象される。舞踏はついに視覚化されることはなく、最終場面では、日常的な現実が、英雄スウィフトの怪物のような霊の苦悶に塗り替えられる脱近代的な演劇的瞬間が開示される。
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Journal of Irish Studies Vol. XXI
ページ: 23-35
ページ: 145-146
Journal of Irish Studies, 23-35, 20 vol. XXI
Journal of Irish Studies vol.XXI
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40020435142
(in press)