研究概要 |
本研究では,まず過去の調査の再分析を行い,技術倫理教育の理想的な姿などを中心として本研究に求められる内容について検討を行った.さらに,A大学における就業状況などを調査し,1.典型的な技術者のキャリアはどのようなものか/典型的なキャリアが存在するか.また,2.それを前提とした場合に,どのような知識・能力・スキルが求められか,について分析し,「技術倫理は,専門知識を実地で活用し,問題解決を行う際に必要とされる意思決定に関わる能力や知識の体系である.すなわち,そのような能力や知識は,技術者教育においては専門知識その知識や能力を総合的に活用するための実践的な知識や能力として理解されるべきである.」という結論を得た. この結論に基づき,理論的な考察およびWinnyに関する事例の分析から,「通常の専門職倫理は,自らの行為が関係者やそのネットワークなどに対して自らの視野内で与えてしまう影響に対する配慮や責任をベースに組み立てられるのに対して,技術倫理はそれらを含むのは当然として,さらに,自らの行為の結果が自らの手を離れた後に視野内外の人々が加える行為と相互作用して視野内外の人々に与える影響に対する配慮や責任までも考慮して組み立てられる」ことを明らかにした.さらに,技術倫理の事例を体系的に整理した上で,その結果から個人の能力や経験に頼る階層型で進められていた技術行為がチーム主体へと移行し,技術者のキャリアにも変化が生じた結果として技術者教育が変化しつつあるように,技術倫理問題の中身も責任と権限の階層を前提として解決が進められるものから,チームによって進められるものへと変容しており,同様に技術倫理教育自体も変化しなければならないことを示した.
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