研究概要 |
本研究では,上述の背景に基づいて,人間の社会的行動の指針となる個人や社会の中の暗黙知を顕在化し,相互参照させるために,個と個,個と集団,集団と集団が相互に有益な情報交換を実現するためのソーシャルコミュニケーション環境を形成するためのコミュニケーションモデルを提案することを目的とする。 具体的には,実世界の人の動きは社会や個人に内在する情報と密接に結びついているという仮説のもと,RFIDタグによって空間的な人の動きセンシングし,得られたデータを通して情報社会における情報の流通過程と知識として情報が資産化される過程を説明するモデル構築のためのシステム開発を行なった。開発したシステムは『OMNIBUS』と呼ばれ,実名タグに関連付けられたメッセージタグを通したソーシャルネットワークを形成するものである。このシステムを実際に公共空間に設置し,200名ほどのユーザによる社会実験を行い,個人のメッセージが傍観者の立場となった第三者の行動に影響を及ぼすことが明らかになった。 さらにユビキタス・コンピューティング技術の発展に伴って増加することが予想される,物理的ないし時間的に制約のある公共空間での情報提供場面において,情報を個別化して提供することによってユーザの行動や態度を促進・抑制させるような情報提供手法を提案することを目的としている。本稿では,情報の効率的利用として従来から広く研究されてきた情報の個人化に対する概念として情報の個別化について述べ,情報が個別化されていることをユーザが認知するための要因について言及した。特に,提供されたコンテンツが個別化されているか否か,そのコンテンツを他者と共有できる状況にあるか否かの2要因に着目し,ユーザの認知と行動にどのような影響を与えているかを観察するための実験室実験を行った。その結果,コンテンツを個別化することの有用性が示されたとともに,提供された情報を他者と共有することのできる環境で受け取ることによってさらにその効果が高まる可能性が示唆された。さらに実験室実験で得られた知見に基づいて実地実験を行い,その結果が現実社会においても十分な有効性を示すことを明らかにした。
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