研究概要 |
関東圏(東京近郊)、関西圏(大阪近郊、岡山近郊)にて自覚的味覚異常のない、18-25歳の若年者を被験者として募集した。被験者から擦過法により、舌の葉状乳頭部の組織を取得し、Chomczynskiらの方法によりtota 1RNAを取得した。取得したtotal RNAから逆転写によりcDNAを調製した。このcDNAをテンプレートとし、T2R1,3,4,5,7,8,9,10,13,14,16,38,39,40,44,45,47,48,49(T2Rs)、THTR4,5,7,9(THTRs)、およびβ-actinをプライマーとして、サイクル数35回でPCRを行なった。PCR産物をマイクロキャピラリー電気泳動法で測定した。その結果、居住地域による味覚受容体の発現性は、各受容体により異り、地域間の共通性と差異の双方を認めた。関東圏および関西圏の両地域において共通的に高頻度で発現を認めたhTAS2R9,10,16,48は、関東、関西両圏に共通な味覚、すなわち普遍的な味覚を形成していると考えられる。さらに、hTAS2R1,7,45,49の様に関東圏と関西圏で差異を示し、関西圏内では同様の頻度で発現している受容体は、両圏内で共通的な味に相当し、日本国内の東西間における大きな味覚の差異を示しているのではないかと考えられる。これに対し、hTAS2R3,4,8の様に関西本圏内においても、大阪近郊と岡山近郊で異る発現性を示した受容体は、地域特異的な味覚の形成に重要であると考えられる。特にhTAS2R4は岡山のみで40%以上の発現頻度を示したにも係わらず、他の地域における発現頻度は10%以下であった事から、岡山地域で多く使用されている食材や、食生活と密接に関与している可能性も考えられる。その他の受容体について、特に発現頻度の低い受容体については、個人の嗜好による味覚の形成に関与している可能性が考えられる。
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