研究概要 |
前年度は,モデルオリゴヌクレオチド基質を用いてクラスター損傷の解析法を検討した。本年度は,細胞内におけるクラスター損傷の生成量を解析し,損傷生成量とLETの関係およびDNA修復の影響を検討した。 照射にはAA8細胞(修復野生型)と塩基除去修復経路の最終段階で働くXRCC1を欠損したEM9細胞を用い,γ線(0.2keV/mm),Cイオン(13keV/mm),Feイオン(200keV/mm)で照射した。照射した細胞の一部は,コロニー形成により生存率を調べ,残りはクラスター損傷(DNA二重鎖切断)を評価するため,アガロースプラグに包埋しスタティックフィールドゲル電気泳動により分析した。AA8細胞の生存率は,いずれの放射線でも照射線量の増加とともに対数的に減少したが,同一線量ではLET上昇とともに低下した。また,EM9細胞(XRCC1-)とAA8C細胞(野生株)のCイオンに対する生存率を比較し,EM9細胞の感受性が高いことを見出した。DNA二重鎖切断発生量は,プラグからリリースされたDNAバンドの強度を指標とした。二重鎖切断発生量はLET増加とともに減少し,細胞生存率のLET依存性とは逆の関係を示すことが分かった。in vitroにおけるDNA照射でもクラスター損傷生成効率とLETの問には逆相関認められた。以上のin vivoおよびin vitroの結果は,放射線によるクラスター損傷の生成量と生物効果の重篤度が単純な相関関係にはないことを示す。さらに,放射線の生物効果の重篤度には,クラスター損傷の構造と細胞内プロセシングが関わっている可能性を示唆する。今後,細胞レベルでより詳細なクラスター損傷の解析を行い,クラスター損傷の実態と生物効果の関連を明らかにしていく。
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