研究概要 |
平成19年度は当該研究補助金を受けての最終年度にあたり,アイルランドにおける「ホーム」のイメージについてさらに資料を収集するどともに,現時点での成果を学会で口頭発表,論文発表につとめた。 7月はダブリンで開催された国際アイルランド文学学会(IASIL)に発表参加し,アイルランド現代詩における「自己」および「ネーション」の象徴としての「ホーム」のイメージの変化を,1960年代かう20世紀末までの詩作品(Seamuls Hesnry,Psul Muldoon,Ciaran Carson,Medbh McGuckianほか)を分析し,辿った。1970年代半ばまでくらいの作品では「ホーム」「ネーション」は英国の攻治的支配下にあったときの「記憶」に基づき,「土着の言語」と結びつけられるが,次第に多様な言語・アイデェンティティを内在させる部分が強調される。これは東ヨーロッパなどから移民を受け入れるようになりますます他民族化社会になろてきたアイルランド共和国,またナショナリストとユニオニストの分権を受け入れる北アイルランドの状況と呼応し,きたるべきさらに多様な文化状況を呈する「ネーション」の需要を準備するあらたな「記憶」の創造行為といえる。 8月初旬はバルセロナで開かれた英語文学学会に参加し,インド,西インド諸島,フィジー,フィリピン,香港という,「帝国」の支配以来,元来土着の言語ではなかった英語によって(も)文化を発信するようになった地域が見てきた「ホーム」の変化について,アイルランドと比較研究するきっかけを持った。旧植民世界は土着の「記憶]に新たな英語文化が作り上げてきた「記憶」を挿木してあらたの「ネーション」の像を提示しようとしている。 当該研究は.,表象文化によって共同体の「記憶」が形象化され,それが共同体,「ネーション」,の形を決定して,そしてまた変化していく仕掛けの研究の発端となった考える。
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