本研究は、研究代表者が調査したバントゥ系言語の基礎語彙200のリストを作成し、言語同士の語彙比較によってその親近関係に見当をつけるということを目標としたものであるが、結果として、研究代表者が前もって作成していた十数言語分を含めて107言語の基礎語彙リストができあがった。このリストに基づく全面的分析は開始したばかりであり、理論的には106×107÷2通りの2言語間比較が可能で、そのうちの有意味的な比較だけでもかなりの数にのぼるので、十分に生かすには相当の時間が必要になりそうであるが、これまでに得られた知見をあげると次の如くである。 1)ケニア中部に話されるキクユ語等は、比較的近くに話されるケニア西部のルヤ諸語よりも、タンザニア北西部(ヴィクトリア湖南岸)のスクマ語等との親近性があきらかに強く、ヴィクトリア湖西岸に一旦定住したバントゥ語の話し手たちがその後東進するにあたって、ルヤ諸語の話し手の祖先は湖の北側を、キクユ語等の話し手の祖先は湖の南側を経由した可能性が強い。 2)キクユ語等は、比較的近くに話されるケニア東部(海岸部)のミジ・ケンダ諸語との親近性はさほど強くなく、キクユ語等の話し手たちとミジ・ケンダ諸語の話し手たちが直接分岐したと考える根拠は薄い。 今後、このリストの分析に、各言語の文法の分析を加え、また、他研究者の有するデータや、文献から得られる知見を参考にして、バントゥ諸語がどのように共通祖語から分岐したかの全体像を得る努力を行う。
|