研究概要 |
本研究では安土桃山時代から江戸時代および明治時代までの代表的な浮世絵作品を資料として,描かれた女性の着衣形態から体形を推定し,人体の特徴を示す頭部,体幹部位の幅形項目,および手足の長径項目を算出して定量的に体形の時代推移を分析した.この分析結果から,浮世絵に描かれた女性像は胴部にくびれが少なく,現代の日本人女性と比較して胴長の体形特徴であることが判明した.さらに江戸期を50年ごとにグループ化し,その平均体形を分析すると,各期間に痩身であるか否かまた傾きがあるか否かの姿勢など固有の特徴が判明した.本年度はこれらの女性像が現実の体形との関係性と相違を解明する為,生体計測値や写真資料が現存する幕末から明治期を対象として,当時の現実の女性と浮世絵の体形を比較分析した.その結果,江戸期の全時期の中で幕末から明治期の浮世絵は,現実の女性に共通した特徴を持つ女性像が描かれており,特に浮世絵と当時の現実の芸妓の体形は極めて近いうえに,芸妓は現代女性にも近い痩身型の体形特徴を持つことが判明した。 本研究における江戸期〜明治期年に渡る絵画からの体形分析は定量分析としての意義だけではなく,多くの浮世絵資料から現実の体形が絵画に如何に映し出され影響していたのかを解釈することを可能にしたと言える.今後広い分野の絵画資料にこの手法を活用することで,体形や衣服デザインに関する情報が解明されると考える.
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