保険監督の核心である健全性監督のあり方を具体的に提案した。現在の時価・簿価のバランスシートと理論値であるリスク係数とに準拠したソルベンシー・マージン比率では、破綻の事前把握が十分ではない。現実の破綻への動きはバランスシートの変化より早く、そこで顕在化するリスクは事前に想定したリスク係数による損失額よりはるかに大きい。過去40年にわたる生命保険会社の利益構造分析の中で、事前の経営破綻の把握には、損益計算書に立脚した健全性指標が有効であることを明確にする。具体的には、損益計算書から「修正基礎利益」という概念を策定、この利益の平均構造からの乖離度を、先行性のある破綻懸念シグナルとしている。モデルの基本構造は、(1)業界全体の破綻リスクの高まる局面の事前察知、(2)個別会社の破綻に至る共通の兆候の抽出、(3)破綻懸念の高い個別会社の選別、とした多段階モデルである。ARMA(自己回帰)モデルを精緻に組み上げ、年度指標であるソルベンシー・マージン比率より、先行性に優れた四半期指標として仕立てている。また、分析の過程で抽出した破綻に関連する多様な指標から、ディフィージョンインデックスの手法を応用した「健全性DI」を作成、より多面的に破綻局面を掴むことを可能としている。これらの健全性指標を常に最新データで更新し、保険会社をモニターすることが新しい監督のひとつ姿となり、また市場との対話ツールや契約者の新たな健全性情報の提供にもなるとしている。 なお、ここで提言した新しい健全性指標とその常時モニター体制とは、現在、方向が模索されているEUのソルベンシーIIの具体化に向けた一つの有力な解になることを意味する。
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