研究概要 |
複素多様体の従来の研究においては,内積として定義されるエルミート計量やケーラー計量が用いられ,成功をおさめてきた.しかし,多変数複素関数論や正則ベクトル束などの研究においては,ノルム構造として定義される複素フィンスラー計量の方が,より本質的な役割を果たすと期待される. 本研究の目的は,コンパクト複素多様体に対するHartshorneの予想の微分幾何的証明を目標に,閉リーマン面から複素フィンスラー計量をもつコンパクト複素多様体への調和写像の研究を軸に,複素フィンスラー幾何学における調和写像論を構築することである.本年度の研究成果は次の通りである. 1.研究代表者・西川は,閉リーマン面から複素フィンスラー多様体への可微分写像に対してエネルギー汎関数を定義し,その臨界写像として調和写像を定義した.これらの定義を,自然な形で任意次元の複素フィンスラー多様体間の可微分写像に対して拡張することに成功した. 2.上記の結果や本萌芽研究でえられたこれまでの研究成果,また実および複素フィンスラー多様体間の調和写像に関する最近の研究成果についての総合報告を「Harmonic maps of Finsler manifolds」としてまとめた.2008年度夏にルーマニア科学協会から出版される学術書「Topics in Differential Geometry」の1章として収録される予定である.
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