研究概要 |
gem-ジハロシクロプロパン化合物は,官能基変換可能なジハロゲノ基を有すと同時にシクロプロパン特有の種々の性質を持ち合わせており,様々な有機合成への応用展開が期待できる.申請者らは,gem-ジハロシクロプロパンの骨格変換をカチオン的・アニオン的・ラジカル的と多面的にアプローチする骨格変換反応を研究してきた.特に,カチオン的ベンズアヌレーションに注力してきた(田辺・西井「gem-ジハロシクロプロパンの特徴を活かした反応と合成:カチオン的ベンズアヌレーション」有機合成化学協会誌,1999,57,170-180). しかし,その合成化学的潜在力は,不斉合成に殆ど活用されてはいない.つまり,不斉合成は非常に困難と予想された.最近,この一つを可能にし,sp^3不斉からアトロブ異性への"Chirality Exchange".と命名した(JACS,2004,126,5358).軸性不斉化合物を合成する新しいコンセプトであり,これを駆使して,光学活性生理活性軸性天然物・機能分子の斬新な不斉合成法になると期待される.このベンズアヌレーションを詳細に検討すると,ベンゼン環の置換様式の微妙な違いで,非常に特異な環化モードが高位置選択的に進行し,これを"ipso-Type Benzannulation"と名づけた.多くの反応中間体を経由するトリッキーな反応にもかかわらず,2,3の例外を除いて,"Chirality Exchange"を伴って進行する. 今年度,"Chirality Exchange"および"ipso-Type Benzannulation"の一般化を図った.特筆すべき成果として,その反応を利用して軸不斉アルカロイド系天然物Dioncophillin A(抗マラリア活性)の全合成に成功した.
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