研究概要 |
トリロイシン型両親媒性分子のπ-A曲線には,一時的な表面圧の増加が観察されるが,これはロイシン側鎖の噛み合い(ロイシンファスナー)に起因する可能性が高い。単分子膜作製においては,加圧方向が分子短軸方向となるので,油圧プレスによってロイシンファスナーを形成させるよりも効果的と考えられるからである。金蒸着基板にすくい取った単分子膜のFT-IRスペクトルを測定すると,一時的圧力増加後のスペクトルにはメチル基の非対称C-H伸縮振動に帰属される吸収帯が2985cm^<-1>に出現する。この吸収は一時的圧力増加前には観察されなかった吸収帯であることからメチル基の高次規則化に基づくと考えられ,一時的圧力増加がロイシンファスナー形成によるものであることを支持する。そこで,各種のロイシン型両親媒性分子についてπ-A曲線を作製したところ,ロイシンファスナー形成を阻害する嵩高い原子団を有する両親媒性分子では,一時的圧力増加が観察されなかった。以上の結果と平成17年度の結果から,ロイシン誘導体は,加圧によってロイシン側鎖同土が噛み合い,分子配列が規則化するとともにその状態が固定される性質を持つことが明らかとなった。噛み合いの程度が圧力に依存するために,高い圧力をかけて作製したフィルムほど分子配列が整い,引っ張り強度をはじめとする機械強度も優れている。ロイシンファスナーが形成されるためには,オリゴロイシン基が水素結合してβ-シートを形成している必要がある。つまり,ロイシンファスナーと水素結合は階層的に強相関している。このような特異的分子集合構造が有機物の鍛造を可能にしている。
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