研究概要 |
C_<60>-TTFダイアッドに関するこれまでの研究から,基底状態でも分子内電荷移動を示す物質の開発およびその光物理的性質を明らかにしてきた。しかし,この系はデバイス化にとって重要な要因である成膜性が乏しく,また有機太陽電池など光電変換材料への応用に必要な電荷分離状態の寿命が極端に短いという欠点があった。これら欠点を克服し,デバイスへの応用を可能にするためC_<60>とTTF誘導体をデンドリマー構造によって連結した超分子機能体を合成し,変換効率も低いながら太陽電池特性を示すデバイスの作成に成功している。変換効率が低い原因としてC_<60>,TTFともに可視光領域の光に対する吸収が弱い点が考えられる。そこで初年度には,C_<60>-TTF系の光電変換効率をさらに向上させるため,C_<60>とTTFとの間に光特性を有する金属錯体の導入を試みた。金属錯体部位として,可視光領域に比較的強い光吸収帯を持ち,色素増感型有機太陽電池において色素増感剤としても用いられているビスターピリジンRu(II)錯体を用いた。今年度は,このC_<60>-Ru-TTF三元系の有機薄膜デバイスの作製を試みた。合成はC_<60>とRu錯体からなる前駆体をビスピリジル-4-ピリドンから3段階で合成した後TTF誘導体と反応させることにより合成した。合成したC_<60>-Ru-TTFは有機溶媒に対する溶解度が著しく低く精製が不十分であったことから,溶解度を改善するためTTF部位にポリエーテル鎖を導入したC_<60>-Ru-TTF三元系の合成を新たに行い,溶解度の向上に成功した。また,収率の向上を目指し,合成法の改良を行った。新しい合成法は,C_<60>のターピリジル誘導体とTTF-ターピリジルRu錯体を反応させることにより行った。溶解度の向上によりC_<60>-Ru-TTF三元系の薄膜作成が可能となった。スピンコート法により作製した薄膜は,変換効率は低いもののこうでん変換特性を示すことを明らかにした。現在,成膜条件の検討ならびに過渡吸収測定による励起状態のダイナミックスの解明を行っている。また,この系については投稿準備中である。さらにC_<60>-TTF系を微粒子に分散させるため,TTF部位に金属に吸着可能な置換基としてアルカンチオール基の導入を試みた。現在のところ,最終目的物の合成にいたっていないが,引き続き合成法の開発を検討中である。
|