研究概要 |
前年度の研究において,分子の配列構造に依存した凝着摩擦特性を測定するための課題として,摺動ピンの加重行程の位置決め精度や,繰り返し着脱時の再現性が最重要であることが判明した.これらを確保するために,下記の2点について改良を行った.まず,アームの篏合方法を改造して,アームの着脱に対して摺動子の位置の再現性を向上した.つぎに,アームの上方に静電容量式変位センサを新たに設置して,アームの垂直変位を直接測定することとした.これにより,接触点の同定精度は大幅に向上し,凝着力・摩擦力ともに,5μNの分解能での測定が可能となった.本装置を用いて,分子潤滑膜の配列構造の形成に伴う摩擦特性の変化を解明するために,極性潤滑剤PFPE Zdol2000と無極性潤滑剤PFPE ZO3の2種類を用いて,磁気ディスク表面に厚さ2nmの単分子層潤滑膜を形成し,摩擦特性の経時変化を測定するとともに,摩擦力と配列構造化との相関を明らかにした.得られた結果を要約すると以下のとおりである. (1)ZO3の摩擦力は,時間経過に依存せず,外部荷重の増加とともに線形に増加する.これは,無極性潤滑剤が固定分子を形成できないことに対応しており,流動分子のみから構成された潤滑膜の特徴といえる. (2)Zdol2000の摩擦力は,膜形成直後では,ZO3と同様に荷重に対して線形的に増加するが,時間経過にともない,摩擦力が増加するとともに,荷重の増加に対して飽和するような非線形関係に移行する. (3)Zdo12000の摩擦特性の経時変化は,ボンド膜厚と極性表面エネルギーの経時変化によく対応しているため,時間経過に伴う配列構造化の進展に起因するものと考えられる.固定分子の形成が進展すると,摩擦力が増加するとともに,荷重の変化に対してゴムのような弾性体に類似する摩擦特性を示すようになる.
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