研究概要 |
本研究では、離散解析関数論の画像処理への応用について調べた。 離散解析関数論は、大別すると、Duffin等による矩形の積分路を用いる流儀と、Isaacs等による三角形の積分路を用いる流儀の2種類の方法に分類される。いずれの流儀でも、複素関数論と類似した「積分」公式を導くために、種々の線積分微分演算、指数関数、フーリエ変換等が定義されている。本研究ではそれらの画像処理への応用の可否についてMathematicaおよびMatlabを利用して理論的および数値的に解析していった。研究を進める上で問題となったのは、1)画像の離散解析関数への埋め込みの可否、2)画像の離散解析関数による近似の可能性、3)離散解析的な微分および積分作用素を用いて工学的に有用なシステム理論を構築することの可否、の3点であった。 残念ながら、上記に関する結果はすべて否定的である。第1点については、離散解析関数はx,y軸上の値あるいはx軸上の値から一意的に定まるため、画像を離散解析関数の中に埋め込むためには著しく不自然な操作が必要となることが判明した。第2点については、境界における画素値から生成される離散解析関数列で画像を近似する方法を試みたのだが、この離散解析関数は著しい速度で発散するため応用上無意味であることが判明した。発散を防ぐための荷重項を加えた展開も試みたのであるが、有用な結果は得られなかった。第3の点については、離散解析的な「微分方程式」の解として得られる離散解析的指数関数の性質が極めて悪いため、この工学的な応用は著しく困難であることが判明した。 総合的に言って、離散解析関数論を画像処理に応用する試みは頓挫した。離散解析関数論自体も複素関数論との形式的な類似性を追及した極めて技巧的な議論なのであるが、あまりに技巧的であるがゆえに、工学への応用の可能性は低いと考えられる。
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