研究概要 |
本研究は,透過電子顕微鏡(TEM)下でのナノプローブ操作により,炭素系ナノ材料の表面原子構造に対し直接物理的・化学的に操作し,同時に電子物性を評価・計測することから,材料の表面原子構造と電気伝導特性の制御と設計に関する新しい知見を得ることを目的とする.具体的には,TEM内でのナノプローブ操作と電子線ホログラフィーにより,ダイヤモンド表面,カーボンナノチューブ表面の気体分子の吸着・脱離現象と表面電子物性との関係及び電気伝導機構を明らかにする.バイアス印加中のカーボンナノチューブの内部電位計測はカーボンナノチューブの電気伝導を探る上でも極めて興味深い.これまでに,電子線ホログラフィー法による多層カーボンナノチューブの観察を実施し,電気伝導機構解明のための内部電位分布の解析についての予備的検討を行った.電子線ホログラフィーによるカーボンナノチューブの内部電位データ取得には15秒程度の露光時間を必要とする.現状のTEMにおいてはこの間の振動や試料ドリフト等が大きいため,これらの影響を如何に少なくするかが技術的課題であることがわかった.また,バイアス印加状態のカーボンナノチューブに対して金属プローブを押しつけることにより曲げ変形応力を印加した。この際のカーボンナノチューブ表面の構造変化と電流-電圧特性との関係について評価した.曲げ変形によりカーボンナノチューブの各層に弾性変形によるたわみが生じると,電気伝導が低下するスイッチング動作を示すことを判明している.一方,ダイヤモンド表面に水素や酸素等を終端させる超高真空処理装置を開発し,CVD合成の多結晶ダイヤモンド表面を水素終端させた試料を用いて,TEM内でのナノプローブ操作による電界放出特性について観察を実施した.TEM内での5分程度の電子線照射により,多結晶ダイヤモンド表面がアモルファス化することが観察された.このため,電界放出特性のその場観察を実現するには,電子線照射量を最適化する必要性があることが明らかとなった。
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