研究概要 |
以下の2種のタンパク質について小麦胚芽の無細胞タンパク合成系による翻訳を行い,生成物の確認を行った。 [1]Racの無細胞タンパク合成---ヒトRac(G-蛋白質)のcDNAをプラスミドpEU3^<TM>に組み込んだ。これを,転写に必要な部分とともにPCRで増幅し,mRNA調製キットで転写してmRNAを調整し,ゲル濾過で精製した.このmRNAを小麦胚芽系キットに入れ,透析法で翻訳させた。SDS-PAGEおよびWestern blottingにより目的のタンパク質が合成されたことを確認した.収量は反応液1mlあたり84μgであった。合成タンパク質は,他の因子とともにNADPH oxidaseを構成しO_2^-生成活性を示した。ただ,比活性は大腸菌で発現したものと比べると低く,一部フォールディングがきちんとしていないタンパク質を含むと思われた。この点は今後解決すべき問題と思われた。 [2]gp91^<phox>の無細胞合成---gp91^<phox>は、白血球膜に存在するフラボシトクロムであり,O_2^-生成酵素の本体である。ここでは、gp91^<phox>分子の後半4分の3部分の発現を試みた。この領域はNADPHとフラビンを結合する領域であるが,比較的疎水性が高い。gp91^<phox>短縮型のmRNAは上述と同様にして行った。タンパク合成は初めての試みとして,系にリポソームを共存させて行なった。なお系には目的タンパク質の補因子FADを添加した。透析法による翻訳後,超遠心すると発現した目的タンパク質のかなりの部分が沈澱した。SDS-PAGEおよびWestern blottingにより目的のタンパク質が合成されたことが確認された.沈澱には他のタンパク質がほとんど含まれなかった。このことから,予想どおり,本タンパク質は発現と同時に系に存在するリポソームに取り込まれたこと,またこのやり方は発現と分離が同時に行えるすぐれた方法であることが示された。得られた酵素タンパク質はジアフォラーゼ活性(色素NBTの還元)を示した。したがって,得られたタンパク質の少なくとも一部はフォールディングがまともであることが明らかになったが,収量は非常に低く,改善する余地が残った。
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