研究概要 |
鳥類の気道内の流れは動脈血と対向した一方向流れになっていることが知られている.一方向流れにより対向流ガス交換を行うため,鳥類の肺のガス交換効率はほ乳類のそれに比べてはるかに高い.一方向流れの発生機序に関しては,生理力学的な興味からいくつかの研究が行われ,気道内の流れとの関連が指摘されているものの,未だ不明な点が多い状況にある. 本研究は鳥類の肺気道にみられる一方向流れに着目し,その発生機序および熱・物質輸送促進について,実験と数値解析により詳細に調べ,その上で鳥類の呼吸機構を規範とした新しい熱輸送管を提唱することを目的としている. まず,鳥類の気道分岐を模擬した直角分岐管における振動分岐流れについて,可視化実験と流速測定実験(PIV),およびSIMPLE法に基づく数値解析を行った.その結果,流れの様と流量分配の関係から,渦による圧力損失と対流慣性力が一方向流れ発生の流体力学的機序を担うことを明らかにした. 次に,CIP法による濃度場の数値解析により,分岐管内ガスの挙動を可視化することで,一方向流れが軸方向の物質輸送を飛躍的に促進することを見出した.一例として,一方向流れの形成により軸方向のガス輸送は30倍近くに促進した. 熱輸送促進への応用の観点から,効果的に一方向流れを形成せしめる方途として,鳥類の気道に独特な狭窄形状と多分岐形状に着目し,流れ場および濃度場の数値解析から,これらの分岐形状の改良が一方向流れの発生を増強し,果たして軸方向の物質輸送を大幅に改善することを示した. これらの結果から一方向流れが熱輸送促進に有用であることが明らかになった.熱輸送特性を実験的に評価することを試み,作製した実験装置において,従来型の振動流式熱輸送管を遥かに凌ぐ熱輸送特性を得た. 以上の結果により,鳥類の肺呼吸の流動機構を応用した,新しい熱輸送技術の基礎となる工学的知見をまとめた。
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