研究課題
萌芽研究
本研究の目的は、自然界での食物連鎖の解析のために、新しいトレーサー実験法の開発を行うことである。従来のトレーサー実験法では、動物が摂取した食物が、体内の消化管に取り込まれただけなのか、それとも分子レベルで体内の生合成経路に完全に取り込まれているのか、その区別がつかなかったため、本研究ではアイソトポマーの概念を応用することで、そうした区別を可能にするような、動物による餌代謝を詳細に解析する新しい方法論の開発を目指した。しかし本研究では、長期に亘って動物プランクトンなどのモデル動物の飼育環境に問題が発生し、実験生物が死滅するなどして、実験の遂行に必要な混合ラベル試料の添加実験が十分に行えなかったことから、本年度は方針を転換し、自然界、特に当初からモデル環境として念頭においていた深海底の底生生態系内で、有孔虫などのメイオベントスやマクロベントスが、いかにして深海に供給される懸濁粒子や沈降粒子有機物からエネルギーを摂取しているのかを、炭素や窒素のアイソトープ存在比の生態系内でのマッピングから解析した。まず、有孔虫の窒素同位体比は種間で大きな相違を示し、有孔虫が懸濁粒子と堆積物の双方から、様々な形態で餌を摂取していることが明らかとなった。一方で、ゴカイなどの多細胞生物の窒素同位体比は、有孔虫よりも数パーミル高い値を示し、有孔虫が懸濁粒子や堆積物などに含まれる有機物と多細胞生物の間をつなぐ、食物連鎖の架け橋の役割を果たしていることなどが明らかとなった。
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Marine Ecology Progress Series 357
ページ: 153-164