研究課題
萌芽研究
神経回路形成のメカニズムを研究する上で、生きた組織内における様々な神経細胞の振る舞いを個々に追跡することは重要な課題である。脊髄後根神経節にある神経成長因子(nerve growth factor;以下NGFと略)感受性神経細胞の神経軸索は、脊髄の背中側の介在神経とシナプスを形成する。申請者は独自に合成した蛍光NGFを用いて、脊髄後根節神経の成長円錐におけるNGF取り込みや細胞内輸送の仕組みを調べている。この蛍光NGFは極低濃度でTrkA受容体をもっNGF感受性細胞に選択的に取りこまれる。このようなリガンド結合の特異性に基づいた選択的な神経細胞の蛍光標識を神経回路形成途上の胚組織内でおこない、そのふるまいを組織内で追跡することによって、神経軸索ガイダンスのメカニズムを明らかにすることが1この研究の目的である。実験材料として、ニワトリ胚脊髄組織を用いた。この脊髄組織を寒天で包埋した後、氷温近くまで急速冷却し、前後軸に直交する方向にスライスした。作成したスライス標本を、蛍光標識したNGF(2nM)を含むDMEM/F12細胞培養液中で1時間培養した後、20倍、開口数0.95の対物レンズを用いて観察した。この観察の結果、脊髄の背側および後根神経節のほぼ全体に蛍光NGFが結合していることが明確に認められた。この結果は、NGF受容体TrkAを持つ後根節神経細胞が、脊髄背側で脊髄神経とシナプス結合しているという既知の知見と一致している。後根節神経細胞をより詳細に観察すると、神経節に広く分散した神経細胞体から、末梢と脊髄に向かって神経軸索が伸長しており、この神経軸索内を、神経末端から取り込まれた蛍光NGFが行き来することが認められた。生きた脊髄スライス標本を用いたこのような神経栄養因子のダイナミクスの観察は世界的にこれまでに例がなく、極めて新しいアプローチであると考えられる。
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