研究概要 |
動脈硬化の新たな危険因子であるホモシステインの血中濃度(Hcy)と、その代謝酵素であるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の遺伝子多型(C677TによるCC, CT, TTの3型)について、人口1,OOO人未満の小離島、比較的人口の多い大離島、そして本土の地方都市の住民を対象として調査を行った。同時に、動脈硬化の指標である頚動脈内膜中膜複合体厚(IMT)と心臓足首血管指数(CAVI)を測定した。 小離島281名、大離島1,695名、本土291名に協力を得た。3地域間のMTHFR遺伝子多型には差を認めなかったが、Hcyは小離島が11.1(±0.3,SD)μmol/lと最も高く、次いで大離島8.8(±O.1,SD)μmol/l、本土6.6(±0.3,SD)μmol/lの順で有意差を認めた。MTHFR遺伝子多型のうちTT型がHcyの上昇を来しやすい型とされるが、小離島ではCC+CT群10.0(±O.4,SD)μmol/lとTT群18.7(±0.9,SD)μmol/lに大きな差があり、大離島でもCC+CT群8.7(±0.1,SD)μmol/1とTT群10.0(±0.4,SD)μmol/lとに有意差を認めた。本土ではCC+CT群6.7(±0.3,SD)μmol/lとTT群6.6(±0.7,SD)μmol/lに有意差を認めなかった。IMT値およびCAVI値は、3地域間やMTHFR遺伝子多型間に有意差はなく、Hcyとの関連も認められなかった。 生活環境の違う3地域の調査で、遺伝因子に差がないにもかかわらずHcyに地域差があることを証明した。原因として遺伝因子を上回る環境因子、特に食習慣などの関与が強く疑われる。Hcyと動脈硬化の指標が関連しなかった点は、Hcyの低下が動脈硬化性疾患の発症予防には寄与しないとする近年の大規模介入試験の報告を指示する結果かもしれない。
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