研究概要 |
近年の人間活動により大きく攪乱されている海洋生態系を的確に保全・管理・利用するためには,その中で重要な役割を担う生物群の生命機能を深く究明することが必要である.生命機能の深い究明には,継代飼育が容易で,遺伝学実験や分子生物学実験が実施しやすく,マウスやショウジョウバエのような全ゲノムシークエンスが解明された「モデル生物」の存在が,きわめて重要な役割を果たすことが明らかになってきている.本研究は,小型甲殻類のカイアシ類という海洋生態系中の重要生物群に注目し,その一種であるシオダマリミジンコTigriopus japonicusをモデル生物として確立するための基礎を築くことを目指すものである.本種は飼育が容易で世代時間も約2週間と短く,ゲノムサイズも0.5pgと小さく,モデル生物に適している.本研究では,まず本種の集団遺伝構造を把握し,効率的な継代飼育法を確立して主要な地域系統の確保を目指した. 初年度は,ミトコンドリアDNAの12S rRNA遺伝子領域の解析を行い,遺伝的に大きく分化した4つの主要グループを見い出すことができた.2年目の前年度は,核ゲノムの遺伝マーカーとしてのマイクロサテライトDNAの単離を進めた.その結果,6遺伝子座を得ることができた.これらの遺伝マーカーとしての有用性を検討したところ,そのうちの2遺伝子座のフランキング領域に上述の主要グループを明瞭に見分ける複数の塩基サイトを見つけることができた.そして,最終年度である今年度は,その2つのフランキング領域の塩基配列を,グループの地理的分布境界域の集団を中心として解析することにより,これらグループ間では極めて低頻度でしか交雑が起きていないことを明らかにできた.また,上述のDNA解析を踏まえた4グループ25集団を飼育保存している.
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