研究概要 |
膜脂質は膜構造のベースとなるだけでなく,ミクロドメインの形成,シグナル伝達など多様な機能を持つ.しかし脂質分子は通常の化学固定剤とは反応せず,また仮に反応したとしても時間がかかるため,脂質分子の正確な超微局在を従来の免疫電顕法で捉えることはほとんど不可能である.我々はSDS処理凍結割断レプリカ標識法(SDS-FRL)を基礎技術として用い,膜脂質の局在をnmレベルで定量的に捉えることを目指している.本研究では脂質ラフトのマーカーとして用いられるGM1について下記の結果を得た. 正常マウス線維芽細胞ではGM1は半径47nm程度のクラスターを形成して分布していた.このことはRipleyのK関数を用いた点過程解析によって確かめられた.メチルβシクロデキストリンによるコレステロール除去,あるいは氷温,30分の浸漬により,クラスター形成の程度は顕著に低下し,ランダムに分布する領域がしたが,クラスター形成領域も残存した.またこれらの処理により,GM1の標識密度は有意に増加し,最近隣距離も増大した.最近隣距離は無処理群では標識密度によってほとんど変化しなかったが,コレステロール除去群,低温処理群では標識密度が大きくなると減少した.これらの結果は無処理細胞ではGM1がクラスターを作り,2つの処理により分散傾向を示すと考えることによって説明できる. モデル実験の結果,レプリカ上に固定される膜脂質の割合(保持効率)および標識されるGM1の割合(標識効率)はそれぞれ82.6%,19.4-27.7%であり,細胞膜に存在する脂質を非常に高い効率で補足していることが確かめられた.この方法は他の膜脂質にも応用可能であり,今後に多くの展開が期待できる.
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