研究概要 |
心臓に存在するイオンチャネルのうち,胎児型イオンチャネルの発現制御にはNeuron Restrictive Silencing Factor(NRSF)という抑制性転写因子が重要な機能を果たしている。NRSF優性抑制変異体を発現するトランスジェニックマウス(dnNRSF Tg)の心室筋では,これらの胎児型心臓チャネルの発現量が顕著に増大している。我々はこのdnNRSF Tgマウス心室筋において,新たに(1)-70mV付近から活性化され,(2)一価の陽イオンにたいして非選択的な透過性を有し,(3)Ca拮抗剤によって抑制される電流を発見した。これらの性質は洞房結節ペースメーカー細胞にのみ存在する持続性内向き陽イオン電流(Ist)に酷似していた。 Istは未だにその分子の実体が不明である。そこで次に我々はdnNRSF Tgマウス心室筋からIstをクローニングすることを試みた。まずNRSFが結合するRE-1という配列をもつ遺伝子をRE-1 data baseを用いて検索した。その結果,電位依存性Caチャネルα2サブユニット,同じくγ2サブユニット,α1Dサブユニット,low voltage activated Caチャネルα13-3が候補としてヒットした。そこでRT-PCRを用いてdnNRSF Tgマウス心室筋のcDNAからCaチャネルα2,γ2,α1Dサブユニット遺伝子のクローニングを行った。これらをHEK293細胞に発現させ,その生理学的性質をIstと比較した。その結果,電位依存性と薬理学的性質はIstに類似した電流を記録することができたが,イオン透過性は全く異なっており,Istとは別のイオン電流であると結論した。現在は継続してlow voltage activated Caチャネルα13-3の全長cDNAをクローニングすることを試みている。
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