研究概要 |
アンジオテンシンII(AII)シグナルは心不全の病態生理において極めて重要な意義を持つ.我々は,心筋細胞の伸展刺激によりリガンドであるAIIが存在しなくてもAT1受容体活性化が生じることを見いだした[Nat Cell Biol 2004;6:499).伸展刺激によるAII非依存性のAT1受容体活性化がどのような機序でおこり,どのように心不全発症に関与しているのかについては現時点では不明である.そこで本研究では,FRETの技術を用いてAT1受容体シグナルを可視化し,さらにそれを利用して心不全発症機構の解析を行うことをその日的とした. FRETプローブの作成には,黄色の蛍光を発するYFP(yellow fluorescence protein)および青色の蛍光を発するCFP(cyan fluorescence protein)の2種類の蛍光蛋白を同一分子内に人為的に組み込む必要がある.これを433nmで励起すると,YFPとCFPが物理的に離れた場所にある場合はCFPが励起され青色の蛍光を発するのに対して,YFPとCFPが近接して存在する場合にはCFPが励起されて発する蛍光によってさらにYFPが励起され,黄色の蛍光が得られる(FRET現象).AT1受容体のようなG蛋白質共役型受容体の場合は,活性化によって第3細胞内ドメインがC末細胞内ドメインから離れるように構造変化が起こると考えられているので,第3細胞内ドメインおよびC末細胞内ドメインにそれぞれYFPとCFPを組み込むと,受容体活性化によってFRETが減弱すると考えられる.平成17年度には通常の方法でFRETプローブの作製を試みたが,高いFRET効率が得られるプローブが作製できず,平成18年度はさらにYFPとCFPを入れ替える,あるいは,YFPやCFPの前後に数アミノ酸のspacerを挿入するなどの改変を行った.FRET効率に若干の改善が認められたものの残念ながらAT1活性化を画像化するのに十分なFRETプローブは得られなかった.今後は2分子FRETなど異なる機序によるAT1活性化を画像化を目指して研究を進めていきたい.
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