研究概要 |
ダウン症の新生児期にみられる一過性骨髄増殖症(Transient myeloproliferative disorder ; TMD)は、胎児期の肝臓で発症する特殊な白血病と考えられている。この疾患は生後急速に自然治癒するが、その機序として、造血の場が胎児期の月刊蔵から生後骨髄に移行することが関与するのか、あるいは造血細胞自体が有する胎児造血から成人造血への遺伝子プログラムのスイッチと関係するかを明らかにするため、以下の実験を行った。 材料と方法:胎児期の肝臓および骨髄由来の4種の間質細胞(造血微小環境構成細胞:ST2,KN101,AFT024,FHC-4D2)を培養器底面にfeeder layerとして用い、この上に浮遊細胞として患児の末梢血から得られたTMD細胞を共培養し、その増殖維持作用と分化に及ぼす影響を解析した。またヒトの生理的な造血因子(SCF,IL-3,GM-CSF,G-CSF,TPO,EPO)を単独および2者の併用の形でTMD細胞の培養に加え、TMD細胞の増殖・分化への影響を合わせ解析した。 結果と考察:骨髄由来の問質細胞株KM101にて、TMD細胞の増殖維持作用が認められた。この作用は両者の細胞接触のない培養環境下で検出されたことから、液性因子を介するものと考えられた。細胞接触可能な条件における長期培養では、TMDのコロニー形成細胞の維持はいずれの細胞株でも認められなかった。一方造血因子の中で、IL-3、GM-CSF,SCFは強力な増殖刺激作用を示し、IL-3はさらに長期のTMD細胞の生存維持能を示した。IL-3存在下では好塩基球と肥満細胞への分化が証明された。TPO、EPOは単独で増殖刺激作用は微弱であったが、TPO存在下では巨核球への分化が見られ、EPOはSCFの存在下で赤芽球への分化を強力に促進した。以上のごとく、TMD細胞は各々の造血因子に対応した特有の分化を示すことが明らかにされ、TMDの自然治癒には造血環境の変化よりも、TMD細胞の分化能がより深く関与すると考えられた。
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