研究概要 |
背景:肺における遠隔再潅流障害は血管閉塞や外科手術の患者において認められる.Adenosine monophosphate deaminase(AMPD)3によって産生されるinosine monophosphate(IMP)がこの再潅流障害に関与していると言われている.本研究の目的は,IMPの投与が骨格筋の虚血・再潅流モデルにおいて,肺の遠隔再潅流障害を軽減するかどうかである. 方法・結果:マウスの両側下肢を結紮し,3時間後に結紮を解除することによって,肺の遠隔虚血・再潅流障害を作成した.再潅流前後で肺におけるAMPD活性,myeloperoxidase(MPO)活性,IMP, AMPD3mRNA, tumor necrosis factor-α(TNF-α)を解析した。さらに,IMP投与を行い,これらの項目を同様に検討した.肺におけるAMPD3mRNA, AMPD活性,IMP産生は虚血・再潅流後に有意に増加した.また,虚血・再潅流後に,MPO活性,TNF-αは有意に増加し,酸素分圧(Spo2)は有意に低下した.組織学的検査では,好中球の有意な浸潤と蓄積を認めた。一方,IMP投与によってMPO活性,TNF-α,好中球の浸潤,Spo2は有意に改善した. 結論:遠隔虚血・再潅流障害によって,肺におけるAMPD3の活性化とともにWPO活性,TNF-αの増加を認め,肺の炎症を惹起した.IMPの投与によって,MPO活性およびTNF-αの低下,Spo2の上昇を認め,肺の障害が軽減した.以上の結果から,IMPの肺における遠隔再潅流障害の新たな治療法としての可能性が広がった. 今後の展望:今後は,再潅流障害の機序の解明と新たな治療方法の開発をAMPPDに焦点を絞り行う.特にAMPD3の特異的な作用を検討するために,国立循環器病センターと協力して,AMPD2およびAMPD3のノックアウトマウスにおける心臓・肺における遠隔虚血・再潅流障害を解析する予定である.
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