研究概要 |
PC-1はヌクレオシド3リン酸からピロリン酸をつくる膜結合性酵素で,PC-1によって合成されたピロリン酸は石灰化を阻害することが知られている.我々は,PC-1変異マウスの歯周組織を観察した結果,非常に高度なセメント質肥厚を認め,セメント質形成におけるPC-1の関与を世界ではじめて報告した.そこで本研究では,セメント芽細胞や歯根膜細胞の増殖分化におけるPC-1の役割を明らかにするとともに,PC-1を標的にしたセメント質再生療法を開発できるかどうかを検討することとした.本年度は以下の成果を得た. 1.セメント芽細胞株(OCCM30)にsiRNAを導入しPc-1遺伝子を抑制するとOPN遺伝子の発現が上昇した.これはOCCM30にリン酸を添加した際にOPN遺伝子が上昇していたことと一致する結果であった. 2.OCCM30においてリン酸添加により発現上昇が確認されたBSPとOPNの発現は,PC-1 siRNAでは逆に発現が減少した.BSPとOCNの発現はリン酸の上昇とピロリン酸の低下により調整される遺伝子が違う可能性が考えられた. 3.リン酸添加実験では発現の変化が確認されなかったBMP2の発現が,PC-1 siRNAにより上昇することが観察された.OCCM30ではBMP2の発現上昇にはリン酸の上昇よりもピロリン酸の低下が重要な因子となっている可能性が考えられた. 4.PC-1 siRNAの導入に手間取ったため,PC-1阻害の歯周組織再生に対する影響に関するin vivoでの解析は十分にはできなかったが,本年度に得られたセメント芽細胞に関する結果にPC-1変異マウスならびに野生型マウスの歯根膜から得られた細胞の特性解析の結果と合わせて,PC-1を標的にした歯周組織再生療法を開発できる可能性を示すことができた.
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