研究概要 |
【実験の背景および目的】このプロジェクトは炎症性骨吸収の抑制効果が確かめられているW9ペプチドが、骨再生を促進する効果があるか否かを確かめるプロジェクトであった。このW9ペプチドは炎症部位においてマクロファージなどから産生される炎症性サイトカインTNFαのアンタゴニストである。TNFαは骨芽細胞の増殖や分化を抑制することがすでに報告されているが、今回このW9ペプチドがマウスの抜歯後の骨再生を促進するか否かを検討した。 【方法】C57/BL6マウスを用いて左側切歯を削合し1週間後抜歯した。W9ペプチドを抜歯と浸透圧ポンプを用いて4mg/kg/dayの用量で皮下に投与した。3週間後、屠殺しpQCTを用いて切歯を抜歯した部位の骨密度を測定した。また、抜歯後6時間後および1,2,4,7日後に血液を採取し血清中のTNFα濃度をELISA法にて測定した。 【結果】溶媒投与群と比較してW9ペプチドによる骨再生促進効果は認められなかった。血清TNFα量はどのサンプルも検出限界以下であった。 【考察】まず、歯槽骨の再生のモデルである、マウス切歯抜歯モデルを確立したことが実験成果の一つとしてあげられる。抜歯後10週間、マウスを生きたままpQCTにて切歯抜歯後の骨密度の変化をモニタリングした結果、ほぼ100%が骨(海綿骨1%、準皮質骨35%、皮質骨65%)に置き換わることが分かった。3週後には抜歯窩の75%の部位が骨に覆われるが、W9投与によってもこの骨再生を促進することが出来なかった。全身のTNFαの血中濃度は抜歯後6時間でも検出できなかったことから、抜歯によってTNFαが抜歯窩で思ったより産生されておらず、TNFαによる骨芽細胞の増殖分化が思ったより抑制されていなかったことがW9ペプチドの骨再生促進効果が現れなかった原因と考えられた。 【結論】TNFαの産生が局所で亢進しているモデルを用いて再度検討する必要があると思われるが、今回の実験においては骨吸収抑制剤の骨再生促進作用は認められなかった。
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