研究概要 |
緒言:慢性疼痛に至る病態形成過程への慢性疼痛モデル動物を用いた行動解析と内分泌調節系との関連の解明を目的とした研究は非常に少ない.今回,モデルラットの行動学的観察を行い,次いで副腎皮質ホルモンに注目し,行動変化が生体内での動態といかなる関連を認めるか解析した. 実験材料および方法:実験には,Wister系ラットのオスを用いた.麻酔下にて眼窩下神経をChromic gutで結紮する群と絹糸により結紮する群,ならびに偽手術対照群に分けて実験を行った.疼痛発症の評価には、眼窩下神経支配の顎顔面領域にvon Frey hairを用い、圧力をかけた時の逃避行動を観察した(タッチテスト).また,運動量を観察した.さらに,術後45日目に血液と副腎を採取し,血中コルチコステロン濃度の測定と副腎皮質の微細構造学的解析を行った. 結果および考察:慢性疼痛の発症を評価するタッチテストの結果,CCIモデルラット群で,偽手術対照群と比較し逃避行動指数の増加が確認された.絹糸群では同様な痛覚過過敏の症状が観察されたが,結紮部位が中枢側か末梢側かにより異なる傾向が見られた.運動解析を行った結果,コントロール群,chromic gut群,絹糸群で運動量に顕著な差は見られなかった.しかしながら,術式による影響は否定できず,今後のさらなる解析が必要である.コルチコステロンの血中濃度はCCIモデルラット群で,コントロール群と比較して有意に低下していた.副腎皮質の組織像を観察した結果,CCIモデルラットで、Syncytial-lipid structures(SLS)が高頻度に観察された.また、透過電子顕微鏡の観察によりSLSが脂肪滴や変性ミトコンドリア,コレステリン結晶をも含む巨大な集合体であることが示され,このことから,神経結紮による疼痛様の行動変化に副腎皮質の変性が関連することが示唆された.
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