研究概要 |
歯科臨床上,角化歯肉と歯槽粘膜の量的割合が歯科補綴処置の審美的、機能的な成功に影響する。角化歯肉と歯槽粘膜は連続した組織であるにもかかわらず,組織学的特徴は大きく異なっており,未だそれらの生化学的特徴には不明なところが多い。昨年度までに,我々はエラスチンと血型コラーゲンは歯槽粘膜に多く含まれるものの,角化歯肉にはほとんど含まれず,また角化歯肉に多く含まれると考えられてきた1型コラーゲンがmRNA量は多いものの,蛋白量はむしろ歯槽粘膜よりも少ない傾向にあることを明らかにしてきた。本年度は,この1型コラーゲンの生化学的性質をブタの両組織間で比較検証した。ハイドロキシリシン量は,歯槽粘膜に比べ角化歯肉で有意に多かった。コラーゲン架橋分析では,架橋およびその前駆体の総量は両組織間で有意な相違を認めなかったものの,歯槽粘膜に比べ角化歯肉では,未熟型架橋と成熟型架橋の割合(未熟型架橋/成熟型架橋)が有意に高く,角化歯肉は歯槽粘膜よりも代謝回転が速い組織であることが示唆された。角化歯肉のコラーゲン発現量が多いにもかかわらず,存在するコラーゲン量が少ないこと,およびハイドロキシリシン量の増加によりコラーゲン線維が細くなっている可能性があることからも,角化歯肉が代謝回転の速い組織であることが強く示唆された。本研究によって明らかとなった角化歯肉と歯槽粘膜の生化学的特徴とそれらから推測される生物学的特徴は今後の角化歯肉の診断や再生療法の発展のための重要な情報となるものと考えられる。
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