研究概要 |
感染性心内膜炎は,血中に侵入した菌が損傷している心内膜に付着することによって,はじめて成立する病態と考えられている.これまでは,心内膜炎動物モデル系には,実験動物の頸静脈からカテーテルを挿入し,人工的に弁損傷を惹起するという機械的な方法が用いられてきた.このモデルには,技術的な難しさおよび得られる結果の統計学的信頼性における問題点があり,技術的に簡便でかっ得られる結果にばらつきの少ないモデルを考案することの重要性が考えられた.そこで,本研究では薬物学的に心内膜の損傷を誘発するモデルの確立を試みた.また,従来のモデルでは屠殺した動物の心臓の病理組織の分析を行い疣贅の形成を観察しているにすぎず,菌体投与後の全身状態の経時的変化は議論されていなかった.そこで,炎症状態の経時的な評価も可能なモデルとすることを目指した.薬物には,コラーゲン阻害剤を選択し,成長期ラットの食餌中に混入し飼育するという簡便な方法で,心内膜の人工的損傷を作り出すことができた. 次に,実際に心内膜炎患者血液より分離されたS.mutans株と口腔から分離された標準株とを用いて病原性の検討を行った.すると,コラーゲン阻害剤を混入しない普通飼料で飼育したラットにおいて,血中分離株が口腔分離株よりも病原性が強いことが明確に示せなかった.それに対し,コラーゲン阻害剤を混入したラットでは,血中分離株の病原性の強さを明確に示していた.本モデルの問題点として,コラーゲン阻害剤を飼料中に混入するのでは,心内膜の人工的損傷を作り出す摂取量を明確にできないということが挙げられた.そこで,様々な濃度のコラーゲン阻害剤を腹腔内投与したが,飼料中に混入するモデルのように明確な損傷は誘発できず,このモデルでは阻害剤を持続的に摂取する必要性が示唆された.
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