研究概要 |
本研究では,看護技術が生体リズムを整えられるか否かの可能性を探究してきた。生体リズムに影響をもたらすこととしてすでに解明されてきている照度や自律神経活動の側面から,その現象を捕捉する試みをしてきたが,これまでに明らかにされたことは,通常の状態とは異なる身体的緊張状態を強いられる病床環境に於いては,その影響の方が強く,マスキングをされてしまうことである。そこで,本年度は,看護技術のもつ「個人史における日常性」に焦点を当ててのアプローチを実施し,その結果,新たな知見として次のことが挙げられた。(1)過去に遡って自分自身の生活史の中で「ケアされていた」気分を呼び起こすものに関しては,その時の「安心感」や「気持ちよさ」が喚起されること,(2)非常に高い緊張状態にある場合でも生体リズムは確保されるが,位相がずれるために「熟眠感が得られない」「焦燥感にかられる」などの負の精神状態が惹起される,(3)熟眠感が得られるようになると,別の状況で強い緊張状態に置かれた場合でも交感神経の亢進を抑制する動きがみられること,である。しかし,いずれも,その傾向がみられたのみで科学的検証を行うためには,更なる研究デザインの精錬が必要である。米国ではケアリングとしての看護を強力に推進されており,看護は「状況」の中で議論するという意味における「看護状況」という概念も提唱されている。ポール・リクールは,時間性は「物語」の中にこそ現出することを明らかにしているが,個人のストーリーが患者にとっての安息系・覚醒系の反応を引き起こす可能性が示唆されたことから,今後の課題としては,看護技術の適時性を論じるためには,個人の物語に現出する「ケアされた体験」のもつリラックス効果に着目し,看護状況の特殊性に応じながら,看護技術の安息系・覚醒系を分類していく必要があり,それをして初めて,看護技術の時間生物学的適時性が実践に適用できるようになることが示唆された。
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