研究概要 |
最終年度である本年度は,頭部伝達関数(HRTF)の主観的な選択とバイオメトリクス情報を用いた客観的な合わせ込みについてさらに研究を進めた. 主観的合わせ込みの確率過程については,130の異なる聴取者のHRTFセットが含まれた大規模データベースを用いて多数回選択トーナメント実験を行った.その結果,測定された本人のHRTFがデータベース内の他のものよりも定位感がよいと選択される確率は平均で約6%であった.一方,他人のHRTFであっても,定位感のよいものが存在し,それらの選択確率は約14.5%であった.これは,主観的な合わせ込みにより本人のHRTFと同等かそれ以上の定位感を与えることができる可能性を示す重要な知見である. 客観的な合わせ込みの手法については,境界要素法を用いて3次元モデルを変形することでHRTFがどのように変形するかについて,解析を進めた.その結果,耳の後ろ側に現れる周波数軸上のディップは,耳介のマクロな板効果の影響であり,6kHz以上に現れる上昇角知覚に重要とされるディップは,耳介の詳細な凹凸が影響することを示した.特に,耳甲介腔や舟状窩の深さを系統的に変えることによって変化するディップが違うことが分かった.これは,耳介の形状を把握することによってHRTFの個人化が行える可能性を示す重要な知見である. 以上のような客観的および主観的なHRTFの合わせ込みに関した知見から,例えば主観的に合わせ込んだものを,さらに客観的に個人化する可能性を示すことができたといえる.
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